大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1115号 決定

抗告人

高尾猶行

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙即時抗告申立書記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

記録によれば、抗告人は本件訴訟(東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第八一六三号損害賠償請求事件)において本富士警察署が抗告人から預り保管中の質札を紛失したことに基因する損害の賠償を求めるものであり、右質札は質屋営業法による営業許可を受けた質屋が質置主に交付した質札であることが認められる。

しかしながら、右質札は質契約の成否や内容を証明するための意義を有するのみの証拠証券であつて権利関係が証券の有無に関係づけられている有価証券ではなく、また、質屋は、質物受戻しの請求を受けたときは、請求書が質札を携帯している場合には質札の提示を求めるとともに受取権者の住所、年令及び質物の特徴を質問し、右質札と答弁の内容と、質取りの際帳簿(質物台帳、質取引人名簿)に記載した関係事項の内容とを照合して請求者が受取権者であることを確認し、質札を携帯していない場合には受取権者の住所、氏名、職業、年令を確めるに足りる資料(身分証明書、運転免許証等)の提示を受けるとともに質契約の年月日、質物の品目、数量、特徴を質問し、右資料及び答弁の内容と前記帳簿の記載内容とを照合して受取権者であることを確認し、しかるのち、質物を返還するのであつて(質屋営業法一八条二項、同施行規則二〇条)、質札の提示は質物受戻しに不可欠のものではない。

これらの点に鑑みれば、本件訴訟において質札紛失による損害賠償を求める抗告人の請求が認容される余地は極めて少なく、前記質札が抗告人名義のものではないこと(抗告人作成の「紛失物弁済の申出書」の記載により認められる。)を合わせ考えれば、本件訴訟は民訴法一一八条にいう「勝訴の見込なきに非ざるとき」には該当しないものと解するのを相当とするから、本件申立は救助の要件を欠くものというべきである。

よつて、抗告人の本件救助の申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させて、主文のとおり決定する。

(吉岡進 手代木進 上杉晴一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例